11月8日は起き抜けにバイデン候補の当確のニュースを知り、
足下ふとんの上で寝ていた黒猫のミーちゃんに、「今日は新しい朝だよ!」
と言いながらチュッチュしてカーテンを開けた。
連休になったのと、天気が思いの外良くなったので、
午後になって急に思い立ち、迷っていた山中湖行きを決めて準備した。
今年の山中湖の紅葉がとりわけ素晴らしいと聞いてしまっていたから。
迷ったけど、初めてミーも一緒に連れていくことにした。
それが、後悔の始まりだった。
日が暮れる前に着きたいと気がせった私は、彼の抵抗を無視して抱き上げキャリーバッグに押し込んだ。車の助手席に乗せ、クネクネ山道をどんどん行く。後ろの荷物スペースには犬のさんちゃん。
しばらく、不安な時に発する低い唸り声で鳴いていたけど、
途中バッグに手を入れてなでていたら、ひっかいてくるでもなく、比較的大丈夫そうな感じ。
ふいにすごい勢いで顔を突き出してきたから、
まぁ平気だろうと助手席に座らせたらすぐに座り込んで落ち着いた。
でも逃げられないように、気をつけなきゃ。
途中100均で、つけたことのない首輪を買ってはめたけど、これも全く抵抗しない。
キャリーバッグが嫌だったのかな?
案外このままでもなんとかなるかも。
間に合わせの子犬用リードも首輪につけ、
ミーのトイレが気になったのもあり、
家についてそのまま地面に降ろしてしまった。
ミーは怒ったようにグイグイ歩き出し、
あっという間に安い首輪のホックが外れてしまった!
あ、しまった!
ミーは知らない山中湖の土地をグングン山の方に登っていく。
見失わないようにと私は必死で後を追う。
あっという間に車道を越えて人の入らない森の中に入ってしまった!
追ったら余計上に行きそうだったから、
私は道路に立ち止まりひたすら下から呼びかけた。
最悪、下に降りてくれればいい。
時は5時前。日はどんどん傾き暗くなっていく。
もう時間がないなと思ったとき、私はこのままでは後悔しそうだったから、
森に踏み入って、ミーが最後にいた辺りで必死に名前を呼ぶ。
何分くらい呼んだだろう。
気付いたら、思っていたより近くの木の根っこにじっと臥せてこっちを見ていた。
「いた!」私は嬉しくなって、
「ミーちゃん!」と一歩二歩近づいた。
ミーは一番の恐怖が私であったかのように、あっという間に山の奥まで逃げてしまった。
止まっ・・・たように見えた。
暗くなるし、追ったらもっと遠くに行ってしまう。
私は道路に戻って名前を呼びながら、
帰ってくる方向はこっちだよと何度も念じて家に帰った。
実はその間犬のサンちゃんは近所の柵につながれて、彼は彼で不安な状況にしてしまっていた。
暗くなったら何もできないし、最後に臥せていた姿が、
まだ私の側から離れるつもりではない気がして、それが安心材料となって、
その夜は数カ所にエサと水を置くだけにした。
当日の予定では、ミーを家に残し、さんちゃんを連れて湖畔沿いの
紅葉のライトアップに行こうと思っていたけど、そんな気持ちもすっかり失せた。
オンラインの仕事を持ってきてしまっていたので、そんなことをやって、
眠れないながらもなんとか2時過ぎ寝た夢の中でも、やっぱりミーを探していた。
早起きが大嫌いな私だけど、今朝はなんとか7時台に起きた。
まず朗報!前日玄関先に仕掛けたエサがなくなっている!
他の動物かもしれないけど、2つの小さな鉢に並べたエサと水。
散らかすことなく上手に食べてる。
ミーかな?ミーであってほしい!
私の実家は別荘地内にあり、周囲にポツンポツンと別荘が点在していて、
人は来てたり、いなかったり。
たまたまミーが前日通り抜けたお家の庭の横を通ったら、
人が出てきたので声をかけた。
女性の方はすごく心配してくれたけど、
ご夫婦はすぐに車に乗ってどこかに行かれた。
猫はとりわけ耳がよく、20m先のネズミの足音も聞こえると
前日の夜眠れぬ布団の中で調べて知ったので、とにかく名前を呼んでみる。
方向を聞き分けるのも、犬や人間よりも正確らしい。
とにかく、来るべき方向さえわかってくれればいい。
私じゃなくてもいい、誰かの前に姿を見せて・・・。
情報を書きなぐったメモを持って、見かける人たちに声をかける。
今まで遠くから見ることはあっても挨拶すらしたことなかった近所の人たち。
説明しながら、すぐ涙声になってしまう。
皆さん同情してとても優しい言葉をかけてくれた。
「自分も」「隣の人も」「犬を」「猫を」失踪させて、「帰ってきた」「帰って来なかった」。
色んな共感の声と励ましをいただく。
ミーと私の最初の出逢いがそうだったように、
私は、彼がどうしてもお腹が空いたらちゃんと人に頼ると思っている。
今回はギリギリ2泊しかできないけど、またすぐ戻ってくる。
皆さんの優しい言葉を受けて、少しずつ冷静になって、
長期戦に乗り変える気持ちになっていく。
一日中、何をやっても後悔が渦を巻く。
一日くらいだったら、置いてくるのが正解だったと、ちょっと調べれば出てきた。
キャリーバッグに押し込んだ時のミーの必死の抵抗。
車中の不安な時に出す、いつもと違う低い唸り声。
最後に触れた毛の柔らかさや温もり。
逃げながら、私を恐れるように振り向いた目。
名前を何度も連呼しながら、私が呼ぶから出て来ないんじゃないかと思えてきた。
どんなに信頼し合っていても、一度大きく裏切ってしまったら帳消しになってしまうことだってある。私はミーにとって、ひどい裏切りの人間、一番信じられない人になってしまったのかもしれない。
夕暮れの5時までが勝負と思い、できることは全部した。
役場、保健所、警察署、別荘の管理事務所にも連絡して。
知らないお宅にピンポンして。
何度も同じところを行ったり来たり。
森の中に座り込んで味のしないお弁当を口に詰め込んで。
今回これをわざわざ感情的に書いているのは、
どちらかというと自分が忘れないように記録するため。
昨日今日は自分で起こした最悪な日でありながら、
近所にこんなに優しい人たちが住んでいると知れた素敵な日にもなった。
そのことを記録しておくため。
午後2時頃、気分転換に、やっぱりさんちゃんと湖畔の紅葉祭りを散歩することにした。
目の前におじさん、おばさんが手を繋いで紅葉を指差しながら楽しそうに歩いている。
この世に生きる人みんなが、その手の温もりをどうか忘れないでと思う。
人が人を愛する勇気とか、失う恐怖とか。
バイデンさんは前妻と一歳の娘さんを亡くしたんだよな。
息子さんにすら先立たれた。
それで70いくつになってアメリカの大統領か。
紅葉なんて見てる場合かと思ったけど、悔しいかな、
こんな時でも紅葉はやっぱり綺麗で、写真なんか撮ってしまった。
朝一で話しかけたご夫婦はまた戻ってきて、
お話したら、なんと偶然にも奥さんの方が普段から動物の保護活動をされている方と発覚!
ご自身も猫を何匹も保護して飼ってて、だからとてもご理解があり同情的で、
すごく実用的な情報をいくつもいただいた。
午後にもう一度見失ったところに行ったら、
向こうからわざわざ歩いて探して下さっているところに遭遇。今朝初めましてから早3度目。
色々と話しているうちに、
本当に心強い気持ちになって冷静になり、涙も奥に引っ込んだ。
こんなきっかけがなかったら、私は素敵なご近所さんを知ることがなかったと思う。
こんな親切な誰かのお宅を頼ってくれればいい。
とにかくすぐにでも、大好きなご飯と温かい居場所を確保してほしいの、ミーちゃん。
そうだ、忘れずに全部、今日感じたこと書いておきたいんだ。
何度もよぎったのはサンテグジュペリの「星の王子さま」。
「星全部が笑ってるような気がする」は、「山全部がミャーと言ってる」みたいだったし、
「最後に、もしも王子さまを見かけたら、手紙で知らせて私をなぐさめて下さい」というところは、「ちょっとした目撃情報でもいいので教えて下さい」になった。
同じ作者の「夜間飛行」かな、「人間の土地」かな、忘れたけど、悪天候で方向を見失った操縦士が小さな光のきらめきにギリギリの希望を託す心理を、私は遠くの黒い岩とか腐った木の根っこの影に何度も何度も見た。
後悔先に立たず。
覆水盆に返らず。
小学生のころ自分で実験をしても知ったんだ。
時間は戻らないってこと。
1つの石ころを蹴って、
それを全く同じところに戻して、
全く同じところに蹴られることなんてないんだってこと。
たとえ奇跡的にできたとしても、その軌道は違った形を描いてるだろうし、
その瞬間に周囲は変化してしまっている。
全く同じ時間なんて一瞬もない。
コロナでたくさんの人が死んでしまった。
その人たちは、何をどうやっても、帰ってはこない。
でも・・・実はさっきから、唯一の希望、仕掛けたエサがなくなっている!
庭の玄関から少しずつ近づけて置いたエサが、もう3回もなくなっている!
この辺でいるとしたら、シカがたくさんと、イノシシは噂程度。
シカもイノシシも、あんなにお皿を動かさずきれいに食べれるかな。
これを書いてる途中、裏庭の落ち葉がカサカサいう音がして、
何かが軒下に潜り込んだ気がしたんだ。
ミーかな?
ミーだと思う!
でも呼んでも気配を隠してる。
私のことが嫌いだから。
昨日よりも今日は寒く、吐く息が夕暮れ時には白い。
万年涙・鼻水垂らしのミーのぐじゅぐじゅの顔を思い浮かべたら
夕食の冷凍ピザを温めながら情緒不安定な人みたいにまた声を上げて泣いたよ。
あの汚い顔をティッシュで拭いてあげるのが好きなんだ。
どちらかというとブサイクなあの顔が大好きなんだよ・・・。
明日の朝発つギリギリまで、まだ時間はある。
ミーちゃん、ごめんね。
扉を開けて、ごはん置いておくからね・・・。