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「雨」




 昨日かなり久しぶりに雨が降った。もう一ヶ月以上降っていなかったと思う。ずっと気持ちの良い青空の日々だったのだけど、ただ単に大地の渇きを心配しただけではなく、私自身も雨の日を待ち侘びていた。


 雨というと、大学時代、アートのクラスで友達になったユウ(Yu)という台湾人の男の子を思い出す。

 私は当時少し鬱を抱えていたし、アメリカ人のカジュアルなノリを身に付けることができなかったから、クラスの中で友達を作ることができなかった。きっと大人しく近寄り難い印象を与えていたと思う。

 そんな中でも珍しく同じアジア系ということもあり、ユウは優しく、自然と友達になった。ユウは私を好きだったかも知れない、と思う。

 そんなユウがある日言った言葉がなぜかずっと印象に残っている。

「雨の日が好き。雨の日は、どこにも出かけなくても、何をしなくても許される気がするから。」

 彼は私よりもずっと人付き合いができて何の問題も抱えていないように見えたから、この言葉は少し意外に響いた。私はむしろネバダの乾いた青空のおかげで何とか正気を保っていたくらいだったから、すぐには共感できず、不思議な考え方をするもんだと思ったくらいだった。

 何年も時が経って気持ちも安定してくると、少しずつ彼の言っていることが分かるようになった。

 青空の日は確かに嬉しい。けれど、雨の日は雨の日で別の嬉しさが込み上げてくる。

 室内に居る限りは、雨が屋根や壁を打つ音が心地良く、それだけで幸せになれる。建物という、自分を守ってくれるシェルターのありがたさも実感する。

 そしてユウが言ったように、雨の日は、用がなければ一日中家の中で過ごすことが正式に許され、ただ美味しいコーヒーや紅茶を飲みながら静かに読書や創作を楽しんでいい日、に認定される。外からの誘惑がないので、集中力が普段よりも増すのだ。

 本来雨や雪には人間の行動に対する抑止力があったのだと思う。

「今日は休んでいいよ。ゆっくりとお過ごし。」と言われているような。


 私は雨の日が好きだ。

 雨の日は、ユウのことも優しく思い出す。




(1月7日筆・20分)



 

zuihitsu・・・前日自分に課したキーワードをお題に、最低400字(原稿用紙1枚)で書く練習をしているものの一部出し


 

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